2026年7月6日、東京・茅場町の飲食店専用ビルの1階に餃子店がひとつ開いた。宇都宮で76席から月3,300万円を売る店の三店舗目である。新しい店は39坪67席なのに、運営会社が掲げた目標は月1,200万円で、これは37席の東京1号店がすでに出している数字と同じ。席を1.8倍に増やしておいて目標をそのままにした計算は、どこから出てきたのか。
1.住所から。東京都中央区新川1-1-7、GEMS茅場町の1階で、東京メトロ東西線・日比谷線の茅場町駅4b出口から歩いて2分。面積39坪に67席、カウンターが12席で残りの55席がテーブル、個室はない。運営は栃木県宇都宮市に本社を置く株式会社チームバリスタが担う。2010年創業で、いま14店舗13業態を回す会社である。
2.ブランド名は餃子といえば芭莉龍。売るのは焼餃子780円に税を付けて858円、麻辣焼餃子968円、水餃子858円、ラム串638円で、ランチセットが1,298円から1,628円まで。11時に開けて22時30分に閉め、金曜だけ30分延ばす。日曜は休み。食べログが捉えた予算帯は夜が3,000円台、昼が1,000円台である。
3.建物を見てこそ、この場所が読める。GEMSは野村不動産が回す飲食店専用ビルのブランドで、地上10階に一層一店舗ずつ十軒が入る。一層が120~160㎡、敷地は160~990㎡。会社が自ら明かした立地の条件が目に引っかかるのだが、一等地ではなくメインストリートから少し外れた狭い場所をわざと選ぶという。2025年7月時点で17棟114店舗。
縦に積んだ十軒の店GEMS茅場町は2018年3月16日に開業した。1階に専用テラス、5階から7階には前の運河を見るバルコニーが付く。ⓒ女子旅プレス
4.狭くて長い層なので動線が一本に立つ。カウンター12席が厨房を向き合い、テーブル55席はその後ろから奥まで押し入る配置。鉄板の上の餃子が水に出会うと蓋の下で音が一度大きく膨らんで収まり、蓋を開けたときに上がる湯気にはニンニクではなく生姜の匂いが混じる。野菜を生姜と白菜の二つで切ったせいである。
5.一口の組み立てが他の店と違う。肉と野菜を9対1に取り、豚肉を刻む代わりに1cm角に切って入れたうえで、皮は1mmまで薄く延ばす。歯が皮を先に通り抜け、肉の塊にもう一度引っかかるので噛む回数が増える。宇都宮の本店はこれを一日3,000個から3,500個ずつ手で包むのだが、一時間に100個を超えて包む人がラインにいると会社は紹介する。
カウンター12席、テーブル55席39坪に67席なので、席ひとつが0.58坪を使う。居酒屋としては密度が高いほうで、個室は置かなかった。ⓒ株式会社チームバリスタ
刻まなかった肉肉9、野菜1の配合なので、断面に肉の塊がそのまま残る。会社はこの食感をステーキになぞらえて売る。ⓒ株式会社チームバリスタ
6.餃子はもともと主役ではなかった。ラーメン店の添え物であり中華食堂のサイドであり、値が安くないと売れない品なので、野菜を増やして肉を減らすほうへ進化してきた。その方向を逆に回したことが、このブランドのやったことのほとんどすべてである。肉を三倍入れて値を二倍取る。
7.ふたつめは時間。餃子専門店の客は15分で立ち上がる。回転が速い代わりに客単価が800円あたりで止まり、その天井は席を増やしても上がらない。会社が掲げる言葉が「餃子を食べる店ではなく、餃子で飲んで話す店」なのだが、この一文の中身は滞在時間を延ばして酒を付けるという宣言である。ラム串や鴨わさ、燻製卵といった添え物がその場所を埋める。
8.みっつめが商圏。茅場町は日本橋の金融街の端であり、新川は隅田川のほうへもう一ブロック入った事務所の密集地である。日曜休みがその性格をそのまま語る。平日の夜にネクタイが押し寄せ、週末は空く場所。席はたくさん要るのに、その席が休む日も多い場所である。
平日にだけ人がいる町すぐ隣の兜町に東京証券取引所があり、新川は隅田川のほうへもう一ブロック入った事務所の密集地である。GEMS茅場町に入る店のかなりが日曜に閉める。ⓒWikimedia Commons
9.ここから金の話。宇都宮の本店は2020年10月に開き、76席で平均の月商3,300万円を超える。平日の来店が約400人、週末なら600人以上。席ひとつが一か月に43.4万円をつくるという計算で、外食業の数字としてはかなり高い。東京1号店の八重北は2023年4月開店で37席、月商1,200万円なので席あたり32.4万円が出る。
10.茅場町の目標も同じ1,200万円である。席は67席で1.8倍なのに目標はそのままなので席あたり17.9万円、東京1号店の55%まで落ちる。会社が計算を誤ったのではない。八重北は東京駅の商業施設の中の37席で、茅場町は路面1階の39坪なので、席あたりの生産性ではなく、一物件が担うべき固定費の絶対額が違う。
三店舗の席あたり月商宇都宮76席3,300万円は席あたり43.4万円、八重北37席1,200万円は32.4万円、茅場町67席1,200万円の目標は17.9万円である。39坪基準の坪あたり月商は30.8万円。
11.目標を一日に割るとこうなる(以下は推定)。日曜を抜けば月の営業日が26日なので一日46.2万円。昼に67席を1.5回転させて100人に1,400円ずつ受ければ14万円で、残る32万円を夜の客単価3,500円で割れば92人なので夜の回転は1.4回。一日192人。宇都宮の本店の平日400人に比べれば半分に満たない。
1,200万円の分解月の営業日26日で割れば一日46.2万円である。昼に100人、夜に92人、一日192人が座ってこそ目標に届く。客数と回転は公開された席数と予算帯に業態の通常値を載せた推定。
12.原価の側は見た目と違う。肉を三倍入れれば原価率が弾けそうだが、餃子五個に入る豚肉を75gと置き、国産の精肉の卸をkgあたり1,300円と置けば98円である(推定)。皮と生姜と白菜を載せても120円あたり、売価780円に対して原価率15%。野菜の多いよくある餃子も原価率は似た場所にある。変わるのは原価率ではなく売価であり、だから同じ席から出る金が二倍になる。
一日3,000個から3,500個宇都宮の本店は毎日手で包む。一時間に100個を超えて包む人がラインにいると会社は紹介する。ⓒぐるなびPRO
13.来歴をたどれば宇都宮は餃子の街として知られるが、その王冠はとうに移った。総務省の家計調査基準で2025年の餃子購入額の1位が浜松の4,046円、2位が宇都宮の3,575円、3位が宮崎の3,418円であり、宇都宮が15年連続で1位を守ったのは2010年までである。ただしこの調査はスーパーで売る生餃子と焼き餃子だけを数え、外食と冷凍食品と中華料理店の持ち帰りは外す。餃子を食べに行く街ではなく、買って焼く街の順位なのである。
王冠は2011年に移った宇都宮駅前の餃子像。総務省の家計調査基準で2025年の餃子購入額は浜松4,046円、宇都宮3,575円、宮崎3,418円の順だった。ⓒWikimedia Commons
14.金が回るのは店子ではなく建物の持ち主のほうである。GEMSは個人店や二、三店舗のオーナーを狙ってつくった商品である。一層を丸ごと渡し、一等地を避けて賃借の条件を下げ、十軒を縦に積んで人が層を移り歩くようにする。地方でブランドをひとつ育てた会社が東京に入るとき、いちばん難しいのが物件探しなのだが、その問題を不動産会社が商品にして売る。チームバリスタが明かした次の出店の条件も、商業施設を問わず路面の30~50坪である。
餃子で飲む店焼餃子の傍らに水餃子とラム串638円、鴨わさ、燻製卵といった添え物が付く。締めのメニューとして牛だしの麺を出す。ⓒのりぐるめ
席の外へ出した二本目の線ブランドは2021年12月から手で包んだ餃子をオンラインでも売る。席を使わず、回転も食わない売上である。ⓒ株式会社チームバリスタ
76席で月3,300万円2020年10月に開店した宇都宮の本店はダイニング56席にバー18席を足して76席で、10時から24時まで開ける。ⓒぐるなびPRO
15.宇都宮で76席から月3,300万円をつくった餃子店が、東京・茅場町の飲食店専用ビルの1階39坪に三店舗目を開き、席を67席まで増やしながら売上の目標は東京1号店と同じ月1,200万円に置いた。席ひとつがつくる金が43.4万円から17.9万円へ落ちる計算であり、その差を買う値が路面1階という場所である。このモデルを韓国へ移せば、手で包むラインで先に引っかかる。一日3,000個を時間あたり100個の速さで包めば30時間かかり、2026年の最低賃金10,320ウォンだけで見ても一日31万ウォンが餃子の皮の前で出ていく。機械を入れた瞬間に手で包むという売価の根拠が消え、手を保った瞬間にその人件費が餃子の原価率を二倍に上げる。この商売をする人が実際に買うのは、肉三倍ではなくそのラインである。