マヨルカ島の西岸、石積みの段々畑2,000段が海へ落ちる崖の村。その真ん中の古い屋敷が、この夏29室のホテルとして開いた。いちばん高い部屋が一泊1,850ユーロ。同じ島のホテルの平均客室単価は153ユーロだ。
1.マヨルカ島西岸のバニャルブファル(Banyalbufar)にGran Hotel Margalidaがこの夏開いた。客室29、すべて海を見る。運営はバレアレスとカナリアで小型ホテル四軒を回してきたANNUA Signature Hotelsで、この家が五軒目になる。建築はÁlvaro OnievaとEstudio Mesonero Romanos、内装はマドリードのVirginia Nietoが担った。
2.ホテルの名はつくったものではない。この家を持っていた女性の名がMargalidaで、その名をそのまま看板に載せた。建物は村の大通りに面した古い屋敷で、いちばん古い部分は塔だという。住所はCarrer Major 49番地。村の人口は573人。
573人が住む斜面バニャルブファルの全景。1920年に894人まで行き、10年で200人へ落ち込んだ村だ。ⓒWikimedia Commons
3.客室は六つの等級に分かれる。20㎡のダブルから始まり、30㎡のスーペリア、テラス9㎡が付くスーペリアテラス、35㎡のジュニアスイート、テラス15㎡を乗せた55㎡のサンセットスイート、そしてワインキャビネットと浴槽が入る55~70㎡のMargalida Suiteへ上がる。16歳未満は受けない。
部屋ではなく等級を売るテラスの付いたジュニアスイート。同じ建物のなかで面積が20㎡から70㎡まで開く。ⓒAnnua Signature Hotels / Condé Nast Traveller掲載分
4.色はひとつに押し切った。このホテルのために別に調色した黄が壁と織物と木工にまたがって流れ、朝の日差しとミモザと山の蜂蜜から取ったという。曲線を使った中世風の家具、手で織ったマヨルカの伝統的なリネン、削っていない石。正午を過ぎればトラムンタナの山裾が影を村の上へ押し下げ、風が段々畑の石垣を上ってきてテラスで割れる。
2,000段の石垣marjades。マルバシアのぶどうを育てるために積んだ段々畑で、この景観が2011年にユネスコ世界遺産に載った。ⓒAccés Mallorca掲載分
村の大通りに面した顔正面は村の路地にそのまま付いている。リゾートのように塀を巡らせて内へ座る方式ではない。ⓒAnnua Signature Hotels / Hotelier Middle East掲載分
5.客室の外に入れたものが、この家の本当の勝負どころだ。トリートメントルームを備えたスパに温水プール、バイタリティシャワー、ユーカリのスチームルームとサウナが付き、Technogymの機械とリフォーマーピラティスを置いた運動室が別にあり、海を見て座る屋外のヨガプラットフォームがもうひとつある。飲食は三つに割った。マヨルカ料理をやるJoan Escalasの本店、牡蠣と生ものを出すローバー、そしてプールサイドの食堂。ワインはSébastien Longoが組む。
浴室も海を見るテラススイートの浴室。水を使う場所を外側に付け、眺めを料金に乗せる構成だ。ⓒAnnua Signature Hotels / Condé Nast Traveller掲載分
6.ここから先の売上と原価は筆者の推定であり、会社が明らかにした数字ではない。公開された料金から見れば、いちばん安い部屋が一泊600ユーロ前後から始まり、Margalida Suiteが1,850ユーロだ。2025年のバレアレスのホテルの平均客室単価は153ユーロ、RevPARは129ユーロ、稼働率は84%だった。島の平均の四倍から十二倍のあいだに料金表を掛けたことになるのだが、その隔たりをつくるのは客室の面積だろうか。
面積では説明できない梯子同じ建物のなかで料金が三倍に開く。上の二等級を支えているのはテラスと眺めだ。
7.在庫が29しかないという事実が、すべての計算の出発点になる。一年じゅう開けても売れるのは1万585室泊で、マヨルカ西岸の小型ホテルがふつうそうするように4月から10月までしか回さなければ6,000室泊の近くまで減る。繁忙期の稼働率を80%とみれば、実際に売るのは5,000泊の内側。一泊部屋をひとつ空ければ500ユーロから1,000ユーロがそのまま飛ぶ。
開ける日が決まっている地中海の山がちな海岸の小型ホテルはふつう冬に閉める。売る日が減れば一日の単価はその分だけ上がらなければならない。ⓒAnnua Signature Hotels / Condé Nast Traveller掲載分
8.だからこういう家の損益は夏の四か月で分かれる。2026年上半期のバレアレスの稼働率は74.1%、RevPARは121.2ユーロだったが、この平均のなかに閉めていた冬は混ざっていない。冬の稼働率が40~50%を下回る市場で29室が通年の運営を通せば、11月から3月まで人件費が売上を削る。閉める決定は無能ではなく設計だ。
客室の外で38%食堂三つとスパと貸し切りを全部合わせて、ようやく客室売上の六割が付く。この比率をつくれなければ夏の四か月で一年を持たせられない。
9.等級のあるホテルなら、この金はどこから出ただろうか。都市の5つ星は宴会場とビジネス需要、そして地域の住民が買ってくれるビュッフェとラウンジで客室外の売上をつくる。ここにはそれがない。村の人が573人で、パルマまで山道で30分なので、夕食の客が上がってくる理由も乏しい。残った方法はひとつだけだった。宿泊客ひとりが滞在中に使う金の総量を上げること。スパとローバーとヨガプラットフォームは好みの問題ではなく、地域の需要が0の立地で客室外の売上をつくる唯一の装置だ。
宿泊客だけが見る共用部通りすがりの人が入ってこない場所なので、共用部が稼ぐ相手は宿泊客しかいない。ⓒAnnua Signature Hotels / Hotel Designs掲載分
10.人を使う問題はもっと厄介だ。食堂三つとスパを全部回す29室のホテルなら、客室あたりの人員が1.5人を下回りにくく、そうなると40人台。村全体の人口の7%をこのホテルひとつが雇わなければならない計算になるが、実際には無理なのでパルマのほうから運ぶ。山道30分を毎日二度、シーズンのあいだじゅう。地中海の小型ホテルが職員宿舎を抱える理由はロマンではない。
11.では客はなぜここで泊まるためにより多く払うのか。マヨルカ西岸は背後に何もないことが商品だ。デイアとバルデモサへ続くこの海岸はユネスコ世界遺産の景観で開発が縛られていて、そのおかげで窓の外の風景がこの先も変わらない。料金を支えているのが建物ではなく規制だという話だ。
背後が空いている村の下の小さな湾。この海岸線に沿って大型リゾートが入れないよう縛られている。ⓒWikimedia Commons
12.16歳未満を受けない決定も同じ計算から出たものだ。大人専用に縛ればプールの騒音と朝食の回転から自由になり、スパと夜の食堂の客単価が上がる。代わりに7~8月の家族市場を丸ごと捨てる。この島でいちばんよく売れる客を諦める代わりに、静けさを売るほうに賭けた。
13.この場所にはすでに決まったやり方があった。デイアのLa Residenciaが1984年に古い荘園二棟をホテルへ変え、マヨルカの山がちな海岸の小型ラグジュアリーはそこから始まった。その下には島のあちこちの農家を直して売るアグロトゥリスモが敷かれる。Margalidaはその文法をそのまま使いつつ、スパとウェルネスを前へ引き出した。寝床ではなく、留まる理由を売るほうへ。
村はそのままだバニャルブファルの教会。ホテルがひとつ入っても村の店の数は増えない。ⓒWikimedia Commons
14.塞がるのは許可のほうだ。バレアレス州政府は2022年から新規の観光宿泊定員の発給を縛り、その凍結はホテルとバケーションレンタルの両方に掛かる。新しいベッドをつくれないという意味だ。だからこの島でホテルを開く方法は事実上ひとつしかなく、すでに定員を持っている物件を買ってそのなかで直して使うことになる。29室の本当の値打ちは建物ではなく、その建物に付いていた宿泊定員であり、それが供給の閉じた市場で料金の上端を支える。地域の議会は年間の観光客1,780万人という上限まで議論中だという。
まとめ
人口573人の崖の村の古い屋敷が客室29のホテルとして開き、地域の需要がない場所でスパと食堂三つによって客室外の売上をつくり、夏の四か月に一年を載せる構造だ。数字をひとつだけ残すなら、客室ひとつが一年に21.8万ユーロをつくるという推定が出てきて、同じ島の平均RevPARを一年に伸ばした値の四倍を超える。これを移そうとする側が先に引っかかる場所は料金表ではなく定員だ。韓国で既存の建物を宿泊に回すには建築法上の用途変更が前に立ち、そのあとに公衆衛生管理法上の宿泊業の届出と消防施設法上の避難・防火の基準、駐車台数の算定、浄化槽容量の再算定が次々と付く。観光振興法上のホテル業として登録するのか、公衆衛生管理法上の宿泊業だけで行くのかによって、求められる客室数と付帯施設も分かれる。供給の閉じた市場で値をつくるのは設計図ではなくすでに出ている許可だという点、それひとつはどの国でも同じだ。