東京・下北沢の線路跡に、直径7mの月が5年続けて昇った。街なかの作品は誰でも無料で見られ、お金を取るのは月の真下の空き地で夜の90分だけ。チケットでは採算が合わないイベントを、鉄道会社が続ける理由を追う。
1.会期は9月18日から10月4日まで。世田谷区下北沢の「ムーンアートナイト下北沢」は今年で5回目を迎える。午後3時から夜9時まで、駅周辺にアート・音楽・演劇・フードなど約100の企画が散らばる。その真ん中の空き地に、直径7mの月が浮かぶ。
2.主催は3者。鉄道会社の小田急電鉄、地元の商店主でつくる下北沢商店連合会、そしてブロックチェーンで美術品の来歴を記録するスタートバーン。昨年は約50万人が訪れたと主催者は発表している。街の作品は無料で、お金を取るのは夜8時から9時半まで、月の下の空き地だけだ。
3.舞台は線路があった土地。小田急線は2013年にこの区間を地下化し、地上に残った細長い土地を小田急が整えて、2022年5月に「下北線路街」として全面開業した。東北沢・下北沢・世田谷代田の3駅を結ぶ1.7kmに13のエリアをつくり、投じた額は約90億円。テラスハウス、温泉旅館、保育施設、ホテル、小さな店が集まる路地が一列に並ぶ。
선로를 걷어 낸 1.7km
4.作品はこの帯に沿って散らばる。空き地の月は英国の作家ルーク・ジェラム(Luke Jerram)の「Museum of the Moon」で、NASAが撮影した月面画像を50万分の1に縮め、球形のバルーンに印刷したもの。バルーンの1cmが月面の5kmにあたる。東北沢駅の屋上は金氏徹平が担当し、駅と駅のあいだのNANSEI PLUSでは岸裕真と竹森達也が植物の生体信号を音に変えるインスタレーションを置いた。今年は月をテーマにした既存作品を借りる方式をやめ、5組に新作を委嘱した。


5.夜8時を過ぎると、空き地の地面に人が並んで腰を下ろす。月は内側から灯され、クレーターの陰が浮き上がり、その奥に住宅の窓明かりが重なる。9時からの10分間は線香花火が配られ、人々は月の下で小さな火花が落ちるのをのぞき込む。月そのものは柵の外の道からも十分に見える。1,200円は月を見る代金ではない。その10分間、月の下に座っていられる場所の代金だ。

6.チケットは4種類。スタンダードが前売1,200円・当日1,500円、グッズ付きで2,000円。最も高いのは街を舞台にしたイマーシブシアター「猫町」で、前売4,500円、月をかたどった菓子とステッカーが付くと5,600円になる。チケットがあれば東北沢駅の屋上鑑賞と天体観測にも入れる。


7.チケット収入は大きくない。昨年の来場者50万人のうち5%がスタンダードを平均1,350円で買ったとすると、約3,400万円になる(推計)。
기본 입장권 수입 (추정)
8.「猫町」は8日間、1日13回上演する。昨年の観客は約1,800人なので、今年の価格を当てはめると800万円前後(推計)。5組の新作制作費、17日分の運営スタッフ、夜間警備を思えば、チケットで黒字にするのは難しい。それでも5年続ける理由は何か。
9.お金が最初に落ちるのは街の店。会期中は線路街と周辺商店街の店が月をテーマにした限定メニューを出し、デジタルスタンプラリーが客を店の前まで連れていく。店のQRコードを読み取ると月の絵がNFTとしてたまり、その記録はスタートバーンのブロックチェーンサービスStartrailに残る。スタートバーンにとってこのイベントは、自社の技術を50万人の前で見せる実演の場だ。


10.最も大きな取り分は鉄道会社に回る。線路街が全面開業した2022年4月、下北沢駅の乗降客は前年同月比17%増えた。同じ期間の小田急線全体の平均は11%。コロナからの回復分を含む数字でも、路線平均より6ポイント高い。90億円を投じた土地から小田急が得るのは運賃と賃料、そしてテラスハウスやホテルの賃貸需要を支える街の評判だ。
11.人がここへ来る理由は、月より街のほうにある。下北沢は古着屋や小劇場、ライブハウスが細い路地に集まり、大型商業施設なしに小さな店で回っている。商店連合会の会長は、この街をそれぞれが好きなことに没頭する人を受け入れる街だと紹介した。月をひとつ真ん中に置き、100の企画を店ごとに散らした設計は、その性格をそのままなぞっている。月を見た人が向かう先は路地。
12.見せるものは広く無料で、お金は狭い場所でだけ取る。この構造も街に合っている。50万人の大半は一円も払わず月を撮って帰る。その写真が翌年の広告になり、お金を取る場所は月の真下の空き地ひとつ、90分だけだ。入口で入場料を取っていたら来場者は数分の一に減り、店の前を通る人も一緒に減っていた。
13.ジェラムの月は40か国以上を巡って350回以上展示され、ロンドン自然史博物館(Natural History Museum)では200万人以上が見た。同じ月を何体もつくって同時に巡回させる作品なので、どの都市でも借りて浮かべられる。よくあるのは一度借りて終わる形。同じ月を5年続けて同じ空き地に上げ、街の秋の行事として定着させた例は珍しい。
14.月が呼んだ客を乗せるのは小田急だけでもない。下北沢駅には京王電鉄井の頭線も停まり、京王は2022年にその高架下に商業施設「ミカン下北」を開いた。小田急が90億円をかけて築いた街の評判を、隣の会社の駅と高架下の店が一緒に分け合う。小田急はそれを承知で5年間お金を出してきた。街に来る人が増えれば、分け合っても自分の取り分は大きくなるという計算だ。


15.17日間で約50万人が出入りするイベントで、チケットで得るお金は数千万円。本当の収入は駅の乗降客と線路跡地の賃料として戻ってくる。韓国でも2025年に鉄道地下化特別法が施行され、線路上の土地を開発する道が開けた。ただ同じ仕組みを組むには、無料イベントの費用を出し、増えた来場者の取り分を受け取る持ち主が先に決まっていなければならない。駅と土地と店の持ち主がばらばらなら、月を浮かべるお金を出す側は現れない。
