ミシュランのビブグルマンに載る南青山のモダンフレンチが、昨年9月からの12か月で福岡に48席、原宿に120席を出した。来月には東京駅の1階が加わる。値段はほとんど下げていない。増えたのは席で、いちばん大きい店はウエディングを受ける。
1.6日、「L'AS TOKYO」の予約が始まった。開業は9月10日、場所は東京駅に直結する新しい複合施設TOFROM YAESUの1階。この施設の商業ゾーンには68店舗が入り、その日に55店舗が先に開く。南青山のモダンフレンチ「L'AS」が東京駅エリアに初めて出す店で、タルトだけを売る「Tarte & Table by L'AS」を併設する。
2.L'ASを開いたのは兼子大輔。1979年生まれ、大阪のラ・ベカスと東京のコートドールを経て渡仏し、2012年に南青山で自分の店を開いた。2014年にはイギリスの美食誌FOURが選ぶ世界の若手ベストシェフに入り、ミシュランガイド東京2026年版にビブグルマンとして載っている。本店の席数は36席。

3.その36席が13年間ただ一つの店だった。2025年9月12日に福岡・薬院で48席が加わり、2026年4月24日には原宿に約120席が開いた。来月の八重洲まで足せば、12か月で三軒。
4.三軒のうちいちばん大きい店から見る。「Prés de L'AS(プレ ドゥ ラス)」、渋谷区神宮前1-13-14 原宿クエスト6階。ランチは11時から15時まで、フードのラストオーダーは13時30分。ディナーは17時から22時まで、コースのラストオーダーは20時。平日限定のシーズナルコースが3,800円、プレ ドゥ ラスコースが5,300円、ディナーのおまかせが5,500円。いずれも税サ込みで、テーブルチャージは別に取る。

5.建物は原宿クエスト。OMAの重松象平がデザインを担い、敷地1,956.49㎡に延床7,513.18㎡、地下2階地上6階の規模。2025年9月11日にナイキが先に入り、残りの9店舗が今年4月24日にまとめて開いた。

6.6階に上がるとまず窓が目に入る。外へ傾いたガラス面が天井の木の格子と出会い、その下に渋谷側の街並みと明治神宮の森が一つの画面に収まる。内装はシンガポールのTakenouchi Webbが手がけた。本店より席の間隔がゆったりしている、という感想が利用者の書き込みに繰り返し出てくる。


7.ディナーのコースは一口のアミューズから始まり、アボカドと甘えびのカクテル、ホワイトアスパラガスとホタテのタルティーヌへ続く。魚の位置には北海道のズワイガニをのせたフレンチトーストが出て、ソースはカニ味噌と卵黄、グラナパダーノだ。塩気と甘みと乳脂が一さじに重なる構成なので、その名前は冗談ばかりでもない。肉は和牛のローストビーフにカフェドパリバター。締めはワゴンから選ぶデザートと、広島・梶谷農園の季節のハーブティー。本店からそのまま引き継いだのはフォアグラのクリスピーサンド一つで、柚子ジャムとフォアグラのテリーヌをクッキーのように薄く軽い生地で挟んだ一口、ここでは1,100円を足すとコースに付く。


8.36席は予約が取りにくい。名前は知っているのに行けていない人が、その分だけたまる。原宿の店はその名前をランチ3,800円で売る。値下げというより、敷居を下げたほうに近い。
9.場所も計算に入っている。原宿は目的地というより通り道だ。JR原宿駅の一日の乗降が11万人台で、その人たちが二時間ほど歩いたあとに座る場所を探す。ただし6階は偶然入ってくる客がいない階なので、予約を入れて上がってくる人だけを受けることになる。

10.そしてこの店はウエディングを受ける。公式の予約ページに出ている金額が10名98万6,150円、30名136万7,750円から159万7,750円、40名160万3,800円から174万9,000円。着席も立食もでき、個室を確約するプランも別にある。

11.数字を並べると、この店の正体が変わる。120席をディナーのおまかせで一度埋めれば66万円。ウエディングは40名しか座らせずに174万9,000円を受け取る。一人あたり4万3,725円だからディナーコースの八倍で、席は三分の一しか使わない。

12.6階を選んだ理由もここで解ける。表参道の1階路面店の賃料が2025年下半期で月坪5万4,000円。120席にテラスと厨房まで入れると380㎡、115坪前後になるが、公開された面積がないので1席2.5㎡で計算した値だ。その広さを1階に置けば賃料だけで月620万円、ディナー満席10回分がそのまま出ていく。

13.埋める仕事が残る。ランチの稼働を60%、ディナーを55%と置いて計算すると一日の売上が78万円台、月26日なら2,000万円台になる。ウエディング一件が一日の商売の二倍を超える。問題は、その一件が土曜の昼を丸ごと使ってしまう点。
14.ファインダイニングのシェフが二つ目のブランドを出すこと自体はよくある。ふつうは値段を大きく下げ、規模も小さくする。ここはその逆に進んだ。本店のディナー予算が1万円前後で、原宿のディナーコースは5,500円だから半分。ところが席は36席から120席へ、3.3倍になった。
15.シェフはその厨房にいない。メニュー監修は兼子の法人である株式会社イートライフが担い、運営はトランジットオペレーションサービスが、企画はトランジットクリエイティブが受け持つ。売っているのは手ではなく名前で、120席を回す力は外食の運営会社の側から来る。来月の八重洲では、その名前にタルトのブランドをもう一つ足す。
16.12か月のあいだに48席と120席が加わり、来月には東京駅の1階が足されるのに、値段はほとんどそのままだ。いちばん大きい店が40名の挙式一件で174万9,000円を受け取るあいだ、同じホールのディナー営業は66万円である。韓国でまず引っかかるのは週末の昼。ソウルでコースを出す店は土曜のランチがすでにいちばんよく回る時間帯だ。その二時間を挙式に回すには、いちばん売れている売上を先にたたむことになる。招待客50名のスモールウエディングの見積もりが1,500万ウォンから2,500万ウォンの市場で、飲食店の貸切料は50万ウォンから200万ウォンの線で固まっている。それより上に値をつけるには、飲食店ではなく挙式会場として売るしかなく、そう売った瞬間に平日の夜の客が見る看板も一緒に変わる。
