京都・中京区の小さなビルが、GOOD DAY (BUILDING) という名で開き直した。9月4日に2階の(BISTRO)MAMAが開店し、地下1階のピッツァスタンドと1階の炭火カウンターが11月と12月に続く。三つとも嵐山の一軒のレストランから分かれ、三つともイタリア料理を根に持つ。営業時間はいずれも17時から23時まで。
1.住所は中京区伊勢屋町346、御幸町通六角を少し下がった奥。阪急京都河原町駅から徒歩6分、地下鉄烏丸駅から8分。大通りから一筋入っているので、観光客が流れ込む場所ではない。
2.上の三層はすでに埋まっていた。5階は夜だけ開くアイスクリームバーUFO、4階は展示と貸切を受けるGD(S)、3階は運営会社の事務所。今回埋まるのは下の三つ。2階の(BISTRO)MAMAが9月1日のプレオープンを経て4日に本開店し、地下1階の(PIZZERIA)MAMAは11月、1階の(SUMIYAKI)MAMAは12月の予定。
3.運営は有限会社DAY。代表は渡部明彦、アルバイトを含めて70人が働く。京都の外に出ない会社であり、今回の三軒の根は嵐山のレストラン「儘」にある。

4.あの建物はもともと阪急電鉄の保養所だった。DAY inc.が岸本姫野建築設計事務所と組んで802㎡を改修し、2021年3月に客室10室の宿とレストランを開き、翌年グッドデザイン賞を受けている。レストランの看板はPIZZERIA 儘。薪窯を据え、国産小麦の生地を伸ばして昼は1,500円、夜は4,500円から。

5.薪窯の前は夏がとくに暑い。燃えている床から出た熱がピールを握る腕まで上がり、生地を入れると縁が1分のうちに膨らんで黒い斑が乗る。ししとうを載せた一枚がその間に出る。この速さが観光地の昼を支えてきた仕掛けであり、地下のスタンドで十種類を回すにはまず同じ速さが要る。

6.一層は広くない。DAYが5階のUFOを紹介する際に記した面積が57㎡なので、一層はおよそ17坪(推定)。三層の席をすべて足しても78。一席あたり0.6坪ほどで、日本の小型店では珍しくない密度。

7.1階に入る炉は長く狭い。灰を薄く敷き、その下で炭が赤く残る造りなので、網を上げ下げするたびに白い灰が舞う。京野菜や京鴨を載せると会社は案内する。鴨の脂が炭に落ちれば煙が一度大きく上がり、その匂いがカウンター13席の全部に同じ強さで届く。狭いからだ。

8.三軒がひとつの階段を共有する。地下でピッツァを一枚食べ、2階でパスタにナチュラルワインを合わせ、5階でアイスクリームにウイスキーを添える夜が、建物の外へ一歩も出ずに終わる。街なかで二軒目を探して歩く時間はふつう10分前後。その10分を階段に替えた。

9.昼を売らない。三軒とも17時に開けて23時に閉める。観光客の動く時間帯をまるごと空ける決めごとだが、この会社はその客をすでに嵐山で受けている。国土交通省京都国道事務所がまとめた資料では、嵯峨嵐山の一帯は昼に人が集まり、清水・祇園の側は夕方から夜へ散る。昼の観光客と夜の街の客を、地域で分けて受ける配置。
10.78席で夜を一度回す。階ごとに客単価と回転を変えて計算すると一日71万円ほど(推定)、月26日営業なら1,850万円台になる。三層を51坪として割れば坪あたり月36万円ほど。京都でも東京でも、うまくいっている小型店が立つ帯だ。
11.この計算が立つ理由は賃料にある。京都の街なかの店舗は四条河原町・木屋町が坪あたり月2万5,000円から5万円、三条・二条の一帯が1万5,000円から3万円で出ており、このビルはその間にある。1階の路面が上階や地下より1.5倍から3倍高いので、三層の平均を坪2万円と置けば月100万円台(推定)。売上の6%に届かない。

12.代わりに厨房が三つになる。薪窯と炭の炉が同じフードを使えず、ビストロの調理台はまた別の給排気を呼ぶ。消防設備も階ごとに要る。一層に78席を詰め、厨房ひとつで済ませられなかったのか。そうすれば夜の客が一度に座って一度に引き、階を移って次の一杯を頼む客が消える。三揃え作って得るものは二つ。ひとつの階が振るわなければその階だけ差し替えられるし、予約の埋まった日には客を上下に回せる。

13.開ける順にも値がつく。9月から12月までの四か月を、33席ひとつで建物全体の費用から回収しなければならない。三軒を同じ日に開けていたら、人を一度に採って一度に教えることになり、開けた瞬間に三つとも不慣れだ。二か月ずつずらせば、2階で手の慣れた人が下へ降りる。現金の負担と人の問題を取り替えたもの。

14.観光に寄りかかっていた会社が、街なかへ重心を移しつつある。京都市観光協会の資料で2026年4月の客室稼働率見通しは81.1%、前年の89.5%より8.4ポイント低い。理由に挙がったのは中国側の渡航自粛と中東情勢。嵐山の10室はその数字を正面から受ける。街なかの78席は別の客を受ける。
15.ひとつのブランドがひとつの建物で価格表を三つに分けて掲げ、夜の六時間だけ開ける。78席、一層およそ17坪、賃料は売上の6%に届かない場所。韓国で同じことをすると、勘定の詰まる場所が変わる。階ごとに営業場が分かれれば営業申告も階ごとに別で、地下の営業場には多衆利用業所の安全要件が乗る。より大きいのは人数だ。ひとりの事業者が三層を回せば常時勤労者が合算され、5人未満の事業場に与えられていた特例が消える。時間外・深夜の割増がつけば、夜六時間の計算は初めから組み直しになる。
