ソウル・鍾路区の敦化門路11ギル。鍾路3街駅から路地へ数歩入った建物の1階と2階に、東京のもんじゃ焼き専門店が韓国1号店を出した。開業から1カ月たった9月も、営業の1時間前から行列ができる。東京の渋谷店で税込2,000円だという明太子もちもんじゃが、ここでは2万2,000ウォンだ。
1.店名は月島もんじゃ もへじ。初営業は8月7日の夕方。1カ月後にニューシスが出した現場記事によれば、午前の営業開始1時間前から客が集まり、キャッチテーブルの遠隔順番待ちと店前のベンチ待ちを並行して受け付けていた。客が口にした待ち時間は40分から1時間。もんじゃは東京の店と同じく、スタッフがテーブルの鉄板で焼く。

2.運営は加納コーポレーション、その根は豊洲市場の水産仲卸、尾粂にある。1871年創業の塩干仲卸の一家が月島のもんじゃストリートに店を出し、市場で毎朝仕入れた魚介を鉄板に載せた。もへじの看板を掲げる店は2024年の時点で15店を超えていた。月島の総本店は250席、吉祥寺店は3フロアで156席。
3.ソウルの店は部屋の雰囲気が違う。ニューシスが撮った客席の写真を見ると、円すい形の笠をかぶせた照明がテーブルの上に低く下がり、濃い木の仕切りのあいだに白い天板の長いテーブルが続く。どのテーブルも中央を四角い鉄板が占め、調味料の瓶と箸立ては鉄板の脇に一列にまとめた。東京の新丸ビル店がガラスブロックの壁と提灯で下町の空気を出したのに対し、ソウルは明るい壁と木で整えている。どちらにしても、テーブルがそのまま調理台になる店。


4.メニューは明太子もちもんじゃを先頭に、海鮮もんじゃ、イカ墨もんじゃ、お好み焼き、焼きそばと続く。チーズやバター、トマトを追加できる。明太子もちもんじゃを頼むと、具材が器ごと出てくる。千切りキャベツを山盛りにし、角切りの餅と小エビを散らして、いちばん上に明太子を一腹まるごと載せた器。ゆるい生地はその下に敷かれている。


5.スタッフはまず具だけを鉄板にあけ、へら2本で細かく刻みながら炒める。しんなりしたキャベツを丸く寄せて、月島で「土手」と呼ぶ堤を築く。真ん中の空いたところにゆるい生地を流すと、泡が立って煮え始め、とろみが出たところで土手を崩して全体を混ぜ、鉄板いっぱいに薄く広げる。客の仕事は、手のひらほどの小さなへらで端から押しつけてはがして食べることだけ。


6.この料理は口より先に耳と鼻に届く。生地が熱い鉄板に触れる音、端で醤油とソースが焦げる匂い。ニューシスの記者たちは、塩気と香ばしさにシャキッとした野菜ともちもちの餅が混ざり、鉄板に焦げついた部分はおこげのようにカリッとしていたと書いた。ひと口ずつの量が少ないので、一枚を食べ終えるまでに時間がかかる。そのあいだに空くのはビールとハイボールのグラス。

7.鍾路の行列は東京から始まった。昨年日本を訪れた韓国人は945万9,600人で国・地域別の1位、過去最多だった。渋谷スクランブルスクエア店を訪れたある訪問記は、1時間45分待ち、客の9割が外国人だったと記している。鍾路に並んだ客たちも、日本旅行を計画するなかでこの料理を知ったとニューシスに語った。
8.日本の飲食店のソウル進出はこの店に限った話ではない。ヘラルド経済は7月の記事で、東京の海鮮丼店つじ半が島山公園の近くに1号店を準備し、板前寿司が韓国で4店を出したと伝えた。東京で行列していた店をソウルで食べたいという需要。なかでももんじゃは、家では真似しにくい側に立つ。広い鉄板が要り、生地を土手の中に閉じ込める手が要るから。見慣れない見た目の料理も、目の前で焼いてくれれば見せ物になる。
9.東京の価格表と並べると差が見える。2024年10月の吉祥寺店メニューで明太子もちもんじゃは1,848円、ある客が伝えた渋谷店の価格は税込2,000円。100円を900ウォンで換算すると、鍾路店はどちらより22〜32%高い。開業直後のSNSの感想には、値段も安くないという一言が添えられた。
10.もんじゃの土台はキャベツと小麦粉の生地、そして出汁だ。一枚の原価で重いのは上に載せる明太子と魚介で、明太子もちもんじゃなら明太子一腹が材料費の半分を超える(推定)。明太子なしの基本のもんじゃは原価率20%台、明太子や魚介が載ると30%台とみる(推定)。高い具材を上に載せるほど、価格を上げる理由も立つ。
11.コストで重いのは人のほう。厨房の仕事はキャベツを刻み、生地を溶き、器に盛るところで終わり、焼く仕事はホールのスタッフがテーブルを回って受け持つ。厨房の人数が減る代わりに、スタッフ一人が一枚を焼き上げるあいだ、そのテーブルにつきっきりになる。席数を70席前後とみれば(推定)、夜はホールだけで6〜8人が立たないと同時に入る注文を焼けない(推定)。
12.二人でもんじゃ一枚に焼きそばかお好み焼きを一つ、酒を2〜3杯頼めば、一人2万5,000〜3万ウォンになる(推定)。客単価2万8,000ウォン、1日2.5回転とすれば、ひと月で約1億4,700万ウォン(推定)。もんじゃは一枚を長く食べる料理なので、回転を上げにくい。行列がどれほど長くても、売上を決めるのはテーブルの数と座っている時間。
13.設備だけを見れば、韓国はこの商売に慣れた国だ。テーブルごとにコンロを入れ、天井から排気ダクトを下ろす工事は焼肉店が何十年も続けてきたことで、その設備が残った空き店舗も珍しくない。もんじゃ用の鉄板は焼肉の網と形が違うだけで、ガス配管や排気の引き方は大きく変わらない。ソウル1号店がどんな設備を入れたかは公表されていない。
14.もんじゃという名は文字焼きに由来する。明治中期、東京の下町の駄菓子屋の鉄板で、子どもたちがゆるい生地で文字を書きながら食べたおやつ。月島のもんじゃ店は1950年代後半までわずか4軒だったが、1990年代に入って急増し、1997年には半径500mの商店街にひしめき合うまでになった。いまこの通りのもんじゃ店は70〜80軒。

15.明太子は逆の方向に海を渡った。釜山で幼少期を過ごした川原俊夫が、そこで食べた明卵漬の味を忘れられず、1949年1月、福岡の自身の店ふくやで味の明太子を初めて売り出した。辛すぎて最初は売れなかったという。その明太子が東京のもんじゃの上に載り、いま2万2,000ウォンの値札をつけてソウルに戻ってきた。東京では仲卸一家の強みだった食材が、ソウルではどこの市場でも買えるおかず。ソウル店が明太子をどこから仕入れているかは公表されていない。
16.東京・月島のもんじゃ店が8月に鍾路で1号店を開き、明太子もちもんじゃ一枚に2万2,000ウォンをとる。行列をつくったのは日本旅行でこの料理を食べたことのある客で、その客は東京の価格も覚えている。韓国でまず引っかかるのは人だ。2026年の最低賃金は時給1万320ウォン、鉄板の前で生地の土手を築く手は、同時に焼くテーブルの数だけ要る。開業の行列が引いたあとも、一枚2万2,000ウォンでその手をすべて養えるだろうか。
