北九州発のうどんチェーンが9月24日、京都市内に初の店を出した。場所は同じグループのステーキガストが使っていた郊外ロードサイドの建物で、店は24時間開けておく。6年前に全店の24時間営業をやめた会社が、このチェーンを240億円で買った後の出来事である。
1.9月24日朝8時、京都市西京区桂の桂川街道沿いに資さんうどん京都桂店が開業した。90席に駐車場36台、席はテーブル・カウンター・ボックス。会社は24時間年中無休、深夜料金なしと案内している。全国121店目、京都府内では4月に開いた八幡市の店に続く2店目。
2.1976年に北九州で始まったこのチェーンは、長く九州と中国・四国の外へ出なかった。2019年に投資ファンドのUnison Capitalが買収し、2024年10月にはファミリーレストラン「ガスト」を抱えるすかいらーくホールディングスが約240億円で全株式を取得した。当時70店余りだった店舗は2年で121店に。桂店の建物の前の主は、同じグループのステーキガストだ。

3.国道9号と交わる道沿いに、広い駐車場を前にして平屋が建つ、よくある郊外ファミレスの区画。京都西部の住宅地から車で来る客が中心で、亀岡や京都北部へ抜ける道筋でもある。資さんはこうした建物を新築するより、グループの既存店を引き継いで看板と厨房を替えるやり方を選ぶ。厨房の排気、給排水、駐車場と進入路がすでにあるので、工事は内装と看板に絞られる。

4.看板メニューは肉ごぼ天うどん。甘辛く煮た牛肉と、細長く切ったごぼうの天ぷらを一杯にのせる。北九州のうどんは麺が柔らかく、噛む前に歯が入っていく。ごぼ天は最初はさくっとしていて、つゆを吸いながら少しずつしんなりする。福岡の店の価格表で、ごぼ天3本が801円、5本が878円。うどんのほかにそば・丼・カレー・おでんまで、メニューは150種を超える。


5.レジの横にはぼた餅が積まれる。もち米を粒あんで厚く包んだ餅で、年間の販売数は680万個。夜は大根と厚揚げのおでんにレモンサワー1杯をお盆にのせる客もいる。うどん1杯にぼた餅を1つ足しても1,000円以下。食事も甘味も1杯の酒も1軒で済むので、時間帯が変わってもメニューを入れ替える必要がない。


6.郊外の道沿いで夜通し明かりをつけておく飲食店は、日本でも珍しくなった。夜勤明けの人や長距離ドライバー、終電を逃した人が明け方に座って食事できる場所は、コンビニのほかにいくつあるだろう。ほかのチェーンは人件費を理由に深夜営業を減らし、競合が抜けた明け方の時間帯は資さんの取り分として残った。
7.九州の外での反応は数字に出た。2024年12月に千葉県八千代市に出した関東1号店は1日平均の売上が200万円前後と報じられ、2025年2月には東京の両国店の前に開業の行列ができた。九州から出てきた人にとっては故郷の味。初めて食べる人にとっては、1,000円で腹が満ちる一食だ。

8.すかいらーくは味とサービスを守ることを前提に買収したと説明し、2026年の新規出店目標も当初の50店から30店に減らした。すかいらーくの金谷実社長が挙げた理由は、無理のない範囲で出店してこそ品質を守れるというもの。関東と関西では麺を自社で製造する体制に移す計画だ。
9.240億円を買収当時の約70店で割ると、1店あたり3億4,000万円ほど。ダイヤモンド・オンラインはEBITDA約14億円の17倍を超える価格だと報じ、外食の買収は通常10倍以下で決まることから、高値づかみではないかという声が出た。金谷社長はこれを真っ向から否定した。
10.店の売上を見ると、否定する根拠はある。2023年8月期の売上高123億7,900万円を当時の約70店で割ると、1店が年間1億8,000万円近くを売る。郊外のうどん店としては高い部類で、しかもこれは九州の古い店がつくった平均だ。
11.新しい地域はその平均を大きく上回る。関東1号店が報道どおり1日200万円を売るなら、年間7億3,000万円、平均の4倍。行列が続くあいだ、こうした店は買収価格のうち自分の取り分を何年も前倒しで返していく。
12.桂店の数字はまだ推計しかない。客単価を1,000円とし、平均的な店と同じだけ売るとすれば、1日の客数は480人あまりで、席は1日に5回転を少し超える。昼と夜に客が集中するうどん店なので、明け方の数時間は席の大半が空いたまま明かりだけがついている可能性が高い。
13.すかいらーくが買収で得たのがブランドなら、資さんが得たのは店舗網だ。8月7日から9月17日までの41日間に開いた資さん5店は、すべてガスト、ラ・オハナ、夢庵の店を転換した場所だった。土地を買って建物を建てる時間がいらず、その場所の売上記録、客層、駐車場がそのまま引き継がれる。食材は東松山・相模原・西宮にあるグループの物流センターから出ていく。

14.24時間営業のコストは、結局は人にかかる。日本の労働基準法は、午後10時から午前5時までの労働に25%の割増賃金を求める。すかいらーくはガストに配膳ロボットと卓上タブレット注文を入れ、ホールの人手を減らしてきた。その経験を持つグループが夜を受け持つので、明け方のシフトを1人か2人で回す設計が組める。

15.すかいらーくは1972年から24時間営業を続けてきたが、2020年1月に約150ある24時間店をすべてやめると決めた。掲げた理由は深夜売上の減少と従業員の健康。その年の7月からグループの店は原則午後11時30分に閉店した。6年後、同じ会社の元ステーキガストの建物で、午前3時にうどんが出てくる。
16.北九州のうどんチェーンがファミレス会社に240億円で売られてから2年で店は121店になり、京都桂店は、グループが夜をあきらめた郊外の建物で夜通し明かりをつける。韓国の郊外にも、閉店したファミレスの建物と駐車場は少なくない。ただ、24時間営業をまねようとすると最初にぶつかるのは賃金だ。常時5人以上の従業員を抱える店は、午後10時から午前6時までの労働に賃金の50%を上乗せしなければならず、日本の割増率の2倍にあたる。
