京都市内ですき焼き店を4軒営む会社が、5軒目としてうどん店を開いた。どの丼にもA5の和牛がのり、いちばん高い一杯は3,380円。
1.2026年10月1日、京都市中京区の御幸町通を御池から少し下がった場所に「肉うどん ひろ重」が開店した。地下鉄京都市役所前駅から徒歩3分。席は1階の28席だけで、午前11時から夜8時まで中休みなしで営業する。定休日はなく、年中無休。
2.店を出したのは、すき焼き専門店「肉のひろ重」。室町で始まり、錦市場に2号店を出し、2024年6月には築180年の町家を改修して86席の高辻店を開いた。2025年4月開業の4号店・御池之は、大正期に建てられた旧邸宅に72席。5軒目で初めて、すき焼き鍋を外した。


3.うどん店も町家だ。麻の暖簾と墨書きの看板を掲げ、格子戸の脇に提灯を下げた。屋根は黒い瓦、外まわりは墨色と木の色の2色だけで、通りの家並みに溶け込む。
4.うどんは5種類。だし系が「特製一番だしうどん」2,000円と「特大舞茸天うどん」2,780円、カレー系が「九条ネギカレーうどん」2,480円、「炙りチーズカレーうどん」3,080円、「特大海老天カレーうどん」3,380円。価格はすべて税抜きで、5つのうち3つがカレーだ。


5.肉は薄切りのすき焼き肉ではなく、塊だ。A5等級の和牛を圧力鍋でじっくり炊き、箸を入れると繊維に沿ってほどける煮込みにしてのせる。カレーは昆布と鰹節でひいた一番だしに、その肉を炊いた煮汁を重ねてつくる。煮汁がカレーに甘みと脂を足し、だしがその重さを引く組み立て。器は「ひろ重」の字を入れた土鍋で、蓋を開けるまで湯気が中にこもる。
6.炙りチーズカレーうどんは、チーズにバーナーの火を当てて表面を焦がして出す。一番だしうどんはカレーを抜き、澄んだだしに煮込み肉をのせる。お茶は宇治の煎茶800円、玉露1,200円。急須を一客ずつ出し、二煎、三煎と味が移るのを追わせる。


7.うどんは、この会社の品書きにもともとあった。高辻店のすき焼きコースは一人前8,000円(税込8,800円)と1万円の2種類で、どちらも葱の焼きびたし、和牛炙りユッケ、すき焼き、お野菜と進み、最後の〆に「ひろ重のうどん」を置く。コースのいちばん最後の一皿を切り出し、一軒の店に仕立てたのが今回の開業だ。

8.高辻店は夕方5時に開け、10時に閉める。御池之は昼営業もあるが、コースは1万5,000円から。観光客が京都を歩くのは昼なのに、この会社の和牛には昼に売る場所がほとんどなかった。運営会社が挙げる客層も京都を訪れる旅行者で、狙う時間は遅めの昼と夕食前のあいだ。予約なしで入り、一杯食べて出ていく客である。

9.価格を並べると、うどんの位置が見える。いちばん安い一番だしうどん2,000円は、御池之のいちばん安いコース1万5,000円の7.5分の1。同じ「A5和牛」の看板に、いちばん低い入り口がもう一つできた。京都の町のうどん屋のきつねうどんが1,000円を切ることを思えば、うどんとしては2〜3倍の値段だ。

10.客単価は、うどん一杯に天ぷらやお茶を足す客が混ざるとして3,300円ほどと置いた(推定)。うどんの滞在を35分と見れば、28席が1日4.6回転して130人。休みなく30日営業すれば、月商は1,290万円ほどになる。
11.原価の計算は軽い。圧力鍋の煮込みには、薄く切って皿に広げるサーロインではなく、長く炊いてほどける部位が合い、そうした部位は同じA5でも1kgあたり5,000円前後だ(推定)。一杯に60gのせれば肉代は300円。海老天は高い食材だが、単品1,380円で別に取る。食材原価率は25%とした。玉露1,200円は茶葉と湯が原価のほぼすべてで、この店でいちばん利の厚い品(推定)。
12.厨房は、麺をゆで、だしを張り、煮込みをのせれば一杯が終わる。葱の焼きびたしから〆まで何度も皿が出るすき焼きコースより手がかからず、9時間通しで開けても同時に6人前後で回ると見て、人件費を400万円とした。家賃70万円、水道光熱費とカード手数料と消耗品140万円を引くと、残りは358万円。売上の28%ほど。
13.この表が頼るのは一種類の客だ。京都の人にとって2,000円のうどんは毎日の値段ではなく、運営会社も最初から旅行者を狙った。円相場や訪日客数が揺れれば、1日130人もそのまま揺れる。すき焼き店には予約台帳があるが、うどん店は店先を通る人に頼る。
14.肉うどんは、もともと関西の庶民の品だ。大阪・難波の「千とせ」では、二日酔いの吉本新喜劇の花紀京が肉うどんのうどん抜きを頼み、その注文がそのまま「肉吸い」という品になった。肉とだしと麺は、いつも安い値段で連れ立ってきた。ひろ重はその組み合わせにA5等級をのせ、値段を2〜3倍にした。
15.代表の黒松高弘氏は、和牛のいちばんおいしい食べ方を知っているのは和牛を扱い続けてきた店だと語る。運営会社がこのうどんに添えた言葉は、京都の商家の「始末の心」、つまり無駄を出さない暮らしの心がけだ。値札は高くても、その下の計算は始末の側にある。肉を炊いた煮汁はカレーになり、すき焼きの皿にのりにくい部位は煮込みになる(部位は推定)。
16.京都のすき焼き会社が、コース最後のうどんを切り出して昼に開く28席の店を出した。推定どおりなら、28席が月1,290万円を売る。韓国の韓牛焼肉店も昼にカルビタンやユッケビビンバを売るが、麺一杯で2万ウォンを取るには、昼に観光客が歩く通りが要る。そうした通りでは、1階の家賃が先にその分を持っていく。
