メルボルン都心の看板のない扉ひとつ。押して入れば地下ではなく地上に酒の店があり、階段を上がれば昼だけ開く茶の店が出てくる。コーヒーの街でコーヒーが主役ではない店が開いたのだが、朝9時半から午後4時半までだけやってそのまま閉める。この時間割がこの店の損益の半分だ。
1.メルボルン中心街リトル・ラトローブ・ストリート(Little La Trobe Street)62番地、その建物の2階。5月に開いた茶の店の名はInterludeだ。一日に二十種を超える温かい茶とコールドブリュー三種、その日の組み合わせの飲み物五種を出す。中国と日本のウーロン・緑茶・紅茶が一覧の骨格になる。通りにはまだ看板がない。市の議会の承認を待っている最中だと運営者は明らかにしてきた。
2.運営者はSean Then。いまは閉じた酒の居酒屋Leonie Upstairsで夜の勤務をしていて、2024年末にノースメルボルンでコーヒー店Cafe Tomiを出し、今年の初めに同じ建物の下の階に日本酒100種をそろえたBar Kaeruを開いた。そして上の階にこの茶の店。三つの店がTomismというひとつの屋根の下にまとまっている。コーヒー、酒、茶。飲むものだけ三種類を売る。

3.空間に使った手は二つだ。人工の天窓とタイルの床。都心の建物の2階は採光を選べないので、光を入れる代わりに光があるように見せた。床をタイルで敷いたのも同じ計算だ。足音がそのまま残る材料なので、人が少ないときに静けさがより大きく聞こえる。運営者が言う目標は都心からしばらく抜け出させてやることで、名前からして「あいだの時間」を意味する。

4.メニューがこの店の本当の図面だ。ストレートで淹れる茶が二十種を超え、その隣に自家製のシロップとキャラメル、フォームを乗せたシグネチャーの飲み物が毎日五種ずつ上がる。酒を売っていた人の手がそのまま見える構成だ。バーテンダーがリキュールを扱うように茶の湯を扱うということで、実際にメニューのひとつは抹茶に桃のウーロンとキャラメル、炭酸を重ねてある。

5.葉を見れば二つの国の性格が分かれる。日本の緑茶のほうは澄んで軽く落ち、中国のウーロンは味が幾重にも積み上がる。潮州から来たウーロンのひとつは名がAutumn Snowで、この系列は杯が冷めながら香りが花から焼いた穀物のほうへ下りていく。最初の一口は薄く、二度目に淹れたときに味が満ちてくる。コーヒーのように一杯で終わる飲み物ではなく、同じ葉が時間によって違う杯を出す構造であり、だから客が長く座る。

6.食べるものはデニッシュが中心だ。Plot出身のヘッドベーカーTaylor Kimが焼き、SepiaとSocietyを経たペストリーシェフのKyoko Miyazakiがデザートを付ける。チョリソとチェダーを入れた塩気のデニッシュ、とうもろこしとチーズ、季節の果物としてはいちじくとラズベリー。ウーロンを入れた台湾式のカステラと味噌キャラメル、抹茶プリンもある。ウーロンを入れたスポンジケーキに同じウーロンを添えれば香りが二度重なって来るのだが、この重なりは実のところ客単価を上げる装置だ。

7.メルボルンでこれがなぜ通るのか。ひとつ目の理由はこの街がコーヒーで埋まっていることだ。フラットホワイト一杯が5ドルから6ドルのあいだに収まった市場でコーヒーに新しい隙間を見つけるのは難しく、ここ数年この街の隙間は抹茶のほうへ集まった。抹茶の専門店が次々でき、原料の値が跳ねた。この店はその流行の隣を選んだ。抹茶を外さずに中心をウーロンと紅茶へ移したのだ。

8.二つ目は静けさを商品にしたことだ。都心のカフェの昼はノートパソコンと打ち合わせと行列でうるさく、その騒がしさを避けたい需要はいつもあるのに行き先が乏しい。2階という位置と看板のない扉がここで値を果たす。見つけにくいことがそのままふるいの装置になるからだ。誰でも流れ込むわけではない店で、人は声を落とす。

9.三つ目がいちばん重い。日本酒バーを開くときにこの運営者が掲げた考えは、入口さえよくつくってやれば人は日本酒と恋に落ちるということだった。茶にも同じ方式を使った。茶を二十種そのまま並べれば初心者は何も選べないのだが、シロップとフォームを乗せた五種が前に立って敷居を下げる。甘く華やかな杯から入り、白湯のような杯へ渡る経路。初心者向けのメニューは売上ではなく案内板だ。
10.金で数えてみれば2階という選択がはっきりする。メルボルン都心のハードウェア・レイン(Hardware Lane)やフリンダース・レイン(Flinders Lane)のような立地の良い路地の地上階のカフェの賃料は、年に1㎡あたり1,500豪ドル前後でこの国のカフェ賃料の最上端にある。100㎡を使うなら年15万豪ドル、こちらの金で1億4,000万ウォン台だ。同じ都心で階段をひとつ上がれば通常はその半分より下へ落ちる(推定)。年6万から7万5,000豪ドル、月475万から594万ウォンの線になる。

11.この差がどこへ行くのかは比率で見なければならない。オーストラリアの外食業で賃料を含む占有費用は売上の10%を下回るのが健全な線で、12%を超えれば構造が揺れるとみる。ところがメルボルンとシドニーの都心の店舗のかなりが14%から18%の区間にある。客単価16豪ドルに一日150人が来るとみれば年商86万豪ドルが出るのだが(推定)、下の階に入っていれば賃料の比率が17%台で、上の階なら7%から9%のあいだへ下りてくる。階段ひとつが賃料の比率を10ポイント近く下げる。
12.原価のほうも茶が有利だ。茶は一杯あたりの原料費が0.5ドルから1.5ドルのあいだで終わり、牛乳が入らない杯が多いので、8ドルを取れば原価率は6%から19%のあいだになる。コーヒーは豆と牛乳を合わせて一杯1.3ドル前後なので20%台だ。ところが有利な分だけ代わりに払うものもある。淹れるのに3~4分かかり、何度も淹れる接客が付けば一杯あたりの人の手がコーヒーの数倍に増える。コールドブリュー三種とシグネチャーの飲み物五種をあらかじめ用意しておく理由がここにある(推定)。

13.時間割も人件費の問題だ。オーストラリアのカフェのバリスタの賃金は常時雇用の時給26.44豪ドル、カジュアル33.05豪ドルから始まり、週末と祝日には25%から50%が上乗せされる。夕方と深夜を捨てればその割増の半分を払わずに済む。代わりにこの店は週7日開けるので、週末の割増はそのまま払う。昼の七時間だけ売る代わりに客単価をデニッシュで引き上げる構造で、ペストリーを焼く人を別に置いたのがその答えだ。
14.この形式がはじめてというわけではない。中国の茶館と日本の喫茶店はもともと長く座る商売であり、西洋の都市のティーハウスはアフタヌーンティーという観光の商品として固まった。オーストラリアの茶の市場は2035年まで年5.1%ずつ育って11億豪ドル台に達するという見通しが出ていて、その成長の大半をいまは抹茶が持っていく。この店が選んだ道は違う。売るものを葉ではなく時間帯で分けたのだ。同じ建物で昼は茶、夜は酒になる。
15.コーヒーで始まって日本酒へ移った運営者が都心の建物の2階に茶を二十種そろえた店を上げ、看板もなく昼の七時間だけ開けながら下の階の酒の店と一日を分けて使う。残る数字は賃料の比率7%から9%、都心の地上階に入ったときの半分だ。この順序を韓国に置けば、賃料ではなく届出で引っかかる。茶とコーヒーだけを売る場所は休憩飲食店で、酒が付いた瞬間に一般飲食店へ分かれ、店で焼いたパンが主力になれば製菓店営業がまた乗る。安い階をつかむところまでは誰でもやり、その階で何種類を売れるかでこのモデルの勝負が分かれる。
