大阪・中之島にある41階建てタワーの1階。9.8坪のカウンターに椅子が5脚ついている。コーヒーを受け取った客の多くはその椅子に座らず、カップを手に建物のアトリウムにある革のソファへ歩いていく。GLITCH COFFEE OSAKAはハンドドリップ1杯700円から2,500円で2022年6月に開業し、2025年初めには最も安い1杯が1,000円になった。この店の1日の販売量を縛るのは席の数ではなく、ドリッパーの前に立つバリスタの手だ。
1.2022年6月10日、中之島フェスティバルタワー・ウエストの1階に開業した。店舗は9.8坪で、カウンターに椅子が5脚。プレスリリースは席数の横に「施設共有の座席あり」と書き添えた。休みは建物の休館日と同じ。
2.建物はオフィス階の上にコンラッド大阪(Conrad Osaka)を載せた地上41階のタワーで、2017年に竣工し、4階には中之島香雪美術館が入る。地下鉄の肥後橋駅と京阪の渡辺橋駅から地下でそのままつながる。出店したのは東京・神保町で始まったGLITCH COFFEE & ROASTERS。創業者の鈴木清和が2015年に1号店を開き、大阪は3店舗目で関西初の店だ。

3.カウンターは壁に付かず、アトリウムの床に島のように立つ。開業前に公開された完成予想図では、4本の柱の上に黒い鉄骨の屋根が載り、屋根の縁の下を照明がひと筋めぐる。無垢材の天板の下は濃いグレーのパネルで、正面にはロゴがひとつ。四方が開いているので、どの方向から来た客もそのまま天板の前に立てる。

4.天板の縁に沿って蓋付きのガラス瓶が並び、瓶ごとに豆の説明カードが1枚ずつ立ててある。販売用の豆は約30種類、そのうち常時15種類ほどをドリンクとして淹れる。ブレンドはなく、深煎りもない。残るのは、ひとつの農園から届いたシングルオリジンを浅く煎った豆だけ。


5.2025年1月、シンガポールのグルメブログDaniel Food Diaryが飲んだ最も高い1杯は、パナマ・ボケテのアルティエリ(Altieri)農園の豆で淹れたハンドドリップで4,000円。赤いリンゴ、ラズベリー、ブドウの香りが先に来て、酸味は穏やかに後を追ったと記している。浅煎りの豆は淹れたてより少し冷めた頃に果実の香りがはっきりする。1杯を淹れるのに5〜6分かかるので、ソファまで運んで腰を落ち着ける頃がちょうどその温度だ。
6.ミルクを入れた1杯は逆の方向を向く。同じ訪問記では、コロンビア・ウイラのラ・ロマ(La Loma)の豆で作ったラテが1,200円で、バニラ、ラム、ミルクチョコレートの味がしたという。開業時に紹介された豆だけでも幅は広い。トマトジュースを思わせるコロンビア、ミントのように爽やかなケニア、ベリーの香りにもう少し重さのあるエチオピア。カップの横には豆の名前を書いたカードが1枚ずつ。


7.カウンターの椅子5脚が埋まったら、客はどこに座るのか。カウンターの奥のアトリウムには、ボタン留めの茶色い革ソファ、黄色い布張りの木の椅子、フロアランプが点在し、天井まで届くガラス窓の向こうからオフィスビルの灯りが入ってくる。ホテルのラウンジのような席を建物が用意し、この店はその真ん中にカウンターをひとつ置いただけだ。

8.客層は東京の銀座店から推し量れる。2023年4月にその店が開業したとき、Time Out Tokyoは客のおよそ半分が外国人観光客だと伝えた。大阪店の比率は公表されていないが、上の階にはコンラッドの宿泊客が泊まり、下の階にはオフィスワーカーが出勤してくる。朝8時の開店はその人たちに合わせた時間。鈴木は日本特有のハンドドリップの喫茶文化を世界に発信したいと語ってきた。旅行者にとって、5分以上待って受け取る1杯はそれ自体が見ものだ。
9.売上は非公表。客単価1,500円、1日150杯と置くと(推定)ひと月675万円、約6,300万ウォン。9.8坪で割れば坪あたり月69万円ほどになる。
10.賃料も公表された数字はない。大阪都心の大型タワー1階の店舗を坪あたり月3万円と置くと、この店は約29万円を払い、推定売上の4%強にあたる。同じ客を店内に座らせるなら30坪ほどは借りる必要があり、同じ単価で月90万円かかる。椅子とソファを置く20坪を、建物が代わりに出している構図。
11.豆の値段は価格表より先に上がった。2025年2月、ニューヨークのアラビカ先物が1ポンド4ドルを超えて最高値を更新し、開業時に700円だった最も安い1杯はその頃1,000円になった。1,000円の1杯にかかる豆の原価は100円前後、4,000円のパナマは600円前後と見る(推定)。原価率は10〜15%と近いが、1杯に残る金額は900円と3,400円で4倍近く開く。
12.販売量を抑えるのは席ではなく手。ハンドドリップは1杯5〜6分で、ドリッパーを何台も並べて同時に淹れても、バリスタ1人が1時間に出せるのは20杯前後と見る(推定)。2人が11時間休まず淹れて440杯、実際には豆の説明や会計の時間がその間に挟まる。手のかからない売上は豆の袋。100gで1,800円からと1杯より高いが、袋ひとつ詰めるのは1分で終わる。

13.鈴木は栃木県に生まれ、家具づくりを経てコーヒーの道に入り、ポール・バセット(Paul Bassett)のもとで10年以上働いた。ポール・バセットは2003年、25歳でワールド・バリスタ・チャンピオンになったオーストラリア人。鈴木はその名を冠したアジアの店舗でバリスタとロースターを育て、独立の前年、2014年にはエアロプレスの日本チャンピオンになった。韓国では毎日乳業の系列会社が同じ名前で140店舗以上を運営している。
14.同じ名前から分かれた二つの店は、席で道が分かれる。韓国のポール・バセットは広い店に席を並べ、アイスクリームやパンまで加えて滞在時間を売る。GLITCHは神保町の1号店が15席、名古屋店が30席だったのを、大阪では5席に絞った。2025年9月に開業した日本橋店には22kgのProbatロースターを導入する予定だと、ある訪問記が伝えた。お金が椅子よりロースターの方へ移っていく流れ。

15.9.8坪に椅子5脚を置き、残りの席は41階建てタワーのアトリウムのソファに任せたカフェが、1杯4,000円のハンドドリップを売っている。推定賃料は売上の4%強。韓国の大型オフィスビル1階で同じ構成を組むと、最初にぶつかるのは建物の管理規約だ。共用部のソファは賃貸人と管理団体が決めた席なので、店が増やしたり動かしたりはできない。スタッフがそのソファまでカップを運び、片付け始めれば、届け出た営業面積の外で営業する問題になる。だからこの構成は店舗の賃貸借交渉ではなく、ロビーを誰にどう使わせるかを決める建物側の設計から始まる。
