大阪・新町で席数11のコーヒーバーを営むue.が、2店目を開いた。東側の住宅街にある5坪の店にアメリカ製の焙煎機を据え、焼いた豆を袋で売る。
1.9月14日、大阪市中央区上町にue.焙煎所がオープンした。地下鉄谷町六丁目駅から徒歩7分。広さは5坪。店の真ん中を占めるのは客席ではなく、アメリカ製の焙煎機Loringが1台。奥のベンチでハンドドリップやラテを飲むこともでき、支払いはカードとQRのみ。

2.1号店は地下鉄で五駅西、西区新町にある。メガネ店が退いた角の1階に、2024年11月2日に開いたコーヒーバーだ。店主の上田真也さんは18歳からバリスタとロースターとして働き、北浜の浅煎り専門店EMBANKMENT Coffeeを経て自分の店を持った。


3.新町店は角の二面がガラス張り。中にはコの字カウンターがあり、客はそれを囲んで座り、バリスタが湯を注ぐ手元を目の前で見る。席は11。音楽はレコードで流し、客が持ち込んだ盤もかけてくれる。器は東京の陶芸家が手で絵付けしたもの。

4.上町の店は逆の考え方でつくられた。焙煎機がまず床を取り、人は残りを使う。機種は公表されていないが、Loringで最も小さいS7 Nighthawkでも床を1m×1.8m占める。生豆の袋、梱包台、エスプレッソマシンまで入れば、ベンチがひとつ残る程度の広さ。内装の色は新町店に合わせたという。

5.豆は中南米のウォッシュドを中心に浅く焼く。果肉を除き水で洗って乾かすウォッシュドは甘さより酸が先に立ち、浅煎りならその酸はレモンの皮や赤い果実の方へ向かう。熱いうちは鋭かった酸味がカップが冷めるにつれて丸くなり、最後に黒糖のような甘さが残る。新町ではホンジュラスのドリップが1杯750円。ひと口で香りが出きらないコーヒーなので、カウンターに長く座ることになる。


6.焙煎機のある店は、まず匂いで知らせる。生豆が熱を受けると草の匂いがパンを焼く匂いに変わり、ドラムの中で豆の皮がパチパチとはぜる。一般的なドラム式焙煎機は、このとき出る煙を別に燃やすアフターバーナーを付ける。Loringはひとつのバーナーが豆を焼く熱と煙を燃やす役を兼ね、燃料も最大80%減らせるとうたう。住宅街の路地に焙煎所を出せるかどうかを分けるのは、この一筋の煙。
7.11席のカウンターの内側に焙煎機を置く場所はない。上田さんは店を二つに分けた。新町は座って飲む場所、上町は焼いて袋で売る場所。客が過ごす時間を売る店と、豆の重さを売る店が別々に立った。ひとつの店に両方を入れようとすれば、椅子と焙煎機が同じ床を奪い合っていたはずだ。
8.Casa BRUTUSは新町店を、コーヒーから食、音楽、本へとつながる街のカルチャー拠点として紹介した。上田さんは関西の雑誌SAVVYに、芯はコーヒー屋だがお酒や音楽を楽しみながら自由に使ってもらえる店にしたいと語っている。実際に食や音楽、本をテーマにしたイベントも開く。客が持ってきたレコードをかけるバーでは、常連が一枚の盤で自分の居場所を残していく。

9.上町は大阪城の南へと続く上町台地の上の街。寺と古い住宅、マンションが混ざり、駅の周りには空堀商店街のアーケードが長く延びる。店は新町より2時間早い朝9時に開く。通勤途中に豆をひと袋買っていく近所の人を見込んだ時間割に見える。

10.豆は200gの袋で売る。ケニアAA Kangochoのウォッシュドが2,600円、エチオピアHaro Batumeのナチュラルが3,000円。1kgに直すと1万3,000〜1万5,000円。ペルーのある農園の豆は80gで3,400円をつけて別に売る。
11.生豆の仕入れ値は公表されていない。スペシャルティの生豆を1kg 3,000円で仕入れるとすれば、焙煎で減る重さも含めて200gひと袋に要る生豆は約700円。袋とラベルを足しても売価の30%前後。飲み物には牛乳とカップ、バリスタの手がかかるが、豆の袋は焼いておけば棚でひとりでに売れる。いずれも推定。
12.家賃は軽い。飲食店ドットコムによれば、直近1年の谷町六丁目駅周辺1階カフェ物件の平均賃料は月坪1万5,900円。この店の広さなら月8万円あまり。ひと月の家賃が200gの豆30袋分だ。面積と平均から計算した推定。
13.焙煎機を買わずに借りる道もある。東京・墨田区のある焙煎所は同じメーカーのS7を1時間3,500円で貸している。週2回、3時間ずつ焼けば月8万4,000円で、この店の家賃とほぼ同じ。上田さんは機械を買って店の真ん中に置く方を選んだ。新品の価格は公開されていない。
14.S7は1回に生豆を最大7kg焼く。5kgでも200g袋が21個でき、店頭価格で5万円を超える。ひと月の家賃の3分の2が1回の焙煎から出る計算。焼いた豆は新町のバーのカップにも入るはずで、11席のバーが回転率に頼らずに済む理由がこの機械にある。
15.店の中で豆を焼くこと自体は、日本では珍しくない。自家焙煎を掲げる喫茶店は店の奥で豆を焼き、その煙と匂いが看板代わりになった。Loringは日本に約50台が入っており、早くに導入したのは長野の丸山珈琲のような大きなロースターだった。大量に焼く現場の機械が、いま5坪の店に入った。
16.ue.は席数11のバーとは別の街に5坪の焙煎所を出し、自ら煙を燃やす焙煎機を店の真ん中に据えた。駅周辺の平均賃料で見れば家賃は月8万円あまり、豆30袋分。韓国で住宅街の1階に焙煎機を入れると、まず来るのは煙と匂いの苦情。一般的なドラム式はアフターバーナーや除煙機を別に付ける必要があり、その設備と排気ダクトが狭い店の床をさらに削る。
