東京の東、錦糸町駅から徒歩5分の場所に客室16室の宿が7月20日に開業した。1室あたり平均40.3㎡、全室にキッチンと洗濯乾燥機が入る。その代わり朝食もレストランもロビーバーもない。
1.AIMA Tokyo Kinshichoが開業した。東京都墨田区江東橋2-1-11、JR総武線と東京メトロ半蔵門線が通る錦糸町駅から徒歩5分。客室は16室のみで、全室にシステムキッチン、調理器具、冷蔵庫、電子レンジ、ドラム式洗濯乾燥機が備わる。チェックイン16時、チェックアウト11時。専用駐車場はない。近隣のコインパーキングを使うようにという案内。
2.運営はカソク。2015年設立で、全国11都道府県で36棟を超える宿泊施設を回している。建築設計・監理は旭化成ホームズ、企画・監修はADDReC、インテリアはリーフデザインパーク。AIMAは同社が今年立ち上げたブランドで、年内に都内7棟を開業すると公表しており、東浅草・飯田橋・日本橋はすでに動いている。

3.客室は4タイプ。最小が35.44㎡、最大が45.90㎡で、16室の平均が40.3㎡。日本のビジネスホテルの客室はふつう13〜18㎡のあいだにある。その2.5倍。
4.定員を合計すると74名。ファミリールーム5室が各6名、残る11室が4名ずつを受ける。室数で測ればゲストハウスの規模だが、寝られる人数で測れば客室30室のビジネスホテルと同じ位置に立つ。

5.設計を担ったのがホテルの設計事務所ではないという点が、この宿の寸法を説明する。旭化成ホームズはヘーベルハウスとヘーベルメゾンを建てる住宅会社であり、中低層建築のヘーベルビルズを累計80件手がけながら非住宅分野へ移ってきた。40㎡前後にキッチンと洗濯機、独立した浴室が収まる平面は、ホテルの図面ではなく賃貸住宅の図面から出てくる。

6.夕方6時のこの建物からはホテルの音がしない。廊下を清掃カートが転がる音の代わりに、どこかの部屋で洗濯機が脱水に入る音が聞こえる。別の階では鍋が煮える音。カレーの匂いと洗剤の匂いが同じ廊下で混ざる。その音と匂いを耐えられるものにするのがこの業態の設計であって、だから壁体と排気の計画が同規模のホテルより厚く太く入る。

7.料金表は公開されていない。同社が上野で回すhotel aimaの直近の販売価格が1泊123ドルから始まり平均203ドルに掛かっており、今のレートで3万2,000円前後。本稿は錦糸町をその値に置いて計算する。4月の東京のビジネスホテルの客室単価が2万1,400円、シティホテルが4万2,700円だったので、ちょうどその間。
8.割った瞬間に値の性格が変わる。4名で入れば1人8,000円、ファミリールームに6名なら5,333円。東京のビジネスホテルのシングル1室分で4人が寝る。家族とグループがこの宿を選ぶ理由はデザインではなく割り算だ。キッチンがあるので1日3食のうち2食が東京の外食価格から抜け、洗濯機があるので荷物も減る。

9.稼働率85%を入れて1年を回してみる。月の販売客室が408泊、売上が1,306万円。1年なら1億5,667万円。RevPARは2万7,200円で、客室1室が1年に979万円をつくる。客室専有面積644.93㎡で割った月の売上は1㎡あたり約2万200円。
10.人はほとんど使わない。カソクの正社員が40名、業務委託とアルバイトが約250名で、この人数が36棟を回している。1棟あたり正社員1名ほど。サービスアパートメントは客室清掃を週1〜3回にとどめ、ホテルは毎日入る。滞在が長くなるほど1日あたりの清掃費は下がり、リネン交換の回数も一緒に下がる。
11.星付きのホテルであれば、この金はどこから出ていただろうか。朝食ビュッフェ、宴会場、ルームサービス、ロビーラウンジ。ここにはそれが一つもない。売上はすべて客室から出て、その代わり厨房の人件費も食材原価も廃棄ロスもすべてない。飲食部門の粗利率が客室の半分を下回る業界で、この引き算は損ではない。客の夕食は錦糸町の商店街が持っていく。

12.昨年日本に入った外国人が4,268万人、消費額が9兆4,559億円だった。どちらも過去最高。訪日客は前年より15.8%増えたと観光当局は集計している。より重いのは滞在の仕方が変わったという事実だ。一つの都市に長く留まる旅が増えれば、宿が売る単位は一泊から一週間へ移る。

13.錦糸町を選んだのもその計算だ。東京スカイツリーまで電車で3分、両国とすみだ北斎美術館が歩ける距離にあり、浅草も東京駅も乗り換えなしで届く。都心のホテルの半分から3分の2の値で部屋を取りながら、観光の動線は都心と変わらない。

14.客室に洗濯機を入れたことが新しい発想ではない。東急ステイが1993年に1号店を開き「住まいにホテルの機能をプラスする」を掲げ、2023年4月時点で31店舗5,192室まで来た。違うのは規模だ。東急ステイが1棟に100室以上を入れるあいだ、カソクは16室の建物を都内に7つ散らすという。

15.散らすほうにも危うさがある。1棟が16室なら、フロントに人を一人置いた瞬間に人件費率が跳ね、だからこのモデルは無人化の度合いがそのまま利益率になる。カソクは東京と大阪で資産価値20億円規模のホテルを年20棟のペースで開発すると公表しているが、その速度で供給が積み上がれば3万2,000円という値が先に揺れる。ここに1万円足せば、相手にする競合はシティホテルへ変わる。
要約
錦糸町駅から徒歩5分の場所に平均40.3㎡の部屋を16室入れ、7月20日に開業した。全室にキッチンと洗濯乾燥機が入り、レストランはつくらなかった。稼働率85%と1泊3万2,000円を入れれば年商1億5,667万円、客室1室が979万円をつくる。星付きのホテルが朝食と宴会で稼ぐ金をこの宿は稼がず、その原価も負わない。韓国で同じことをやろうとすると、まずキッチンで引っかかる。公衆衛生管理法の施行令が炊事設備のない側を宿泊業(一般)、ある側を宿泊業(生活)に分けているため、全室に固定式のキッチンを入れた瞬間に建築物の用途が生活宿泊施設へ移る。そちらは居住利用をめぐる議論で規制が締まった領域で、法令改正後に建てたものは宿泊業の用途にしか使えず、客室ごとの浴室、フロントデスクとロビー、30室あたり1か所のリネン室といった施設要件が付いてくる。キッチンを外して電子レンジと洗濯室を共用に回せば一般の宿泊業へ行けるが、その瞬間にこのモデルが売るものの半分が消える。
