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旧朝香宮邸 本館 · 窓辺の広間に1960年代から現在までのドレスを並べた。右の壁には大きな柄の布が一枚掛かる。ⓒFASHIONSNAP
旧朝香宮邸 本館窓辺の広間に1960年代から現在までのドレスを並べた。右の壁には大きな柄の布が一枚掛かる。ⓒFASHIONSNAP
デイリー カルチャー

旧皇族邸のカーテンをフィンランドの布に掛け替えた(マリメッコ展 模様のちから)

2026.10.05

フィンランドの会社マリメッコは、いまやフィンランドよりアジアに多くの店を持つ。その会社のドレスと布が1933年築の東京のアール・デコ邸宅に掛かり、観覧料は1,400円。

1.「マリメッコ展 模様のちから」が10月3日、東京都庭園美術館で開幕した。会期は12月20日まで、開館は午前10時から午後6時で、入館は日時指定の予約制。一般1,400円、大学生1,120円、高校生と65歳以上は700円。
2.7月に京都文化博物館で始まった巡回展で、東京の次は来年1月のひろしま美術館。その後は北九州・富山・名古屋・長崎を2年かけて回る。この規模の国内巡回は10年ぶりだ。1951年にヘルシンキで生まれた会社がこれまでに作ったプリントは3,500種を超え、そのうち1960年代から近年までのドレス60点余りをDesign Museum Helsinkiとマリメッコのアーカイブから借りてきた。
3.会場となった建物は、朝香宮鳩彦王が暮らした邸宅だ。1933年に竣工し、室内の基本設計はフランスのアンリ・ラパン(Henri Rapin)、ガラス扉と照明の一部はルネ・ラリック(René Lalique)が手がけた。1983年に美術館となり、2015年に重要文化財に指定された。今回の展示では、この本館のカーテンをマリメッコの布に掛け替えた。
掛け替えたカーテン · 本館の部屋の窓に掛かるマリメッコの布。窓枠とラジエーターカバーは1933年のまま。ⓒFASHIONSNAP
掛け替えたカーテン本館の部屋の窓に掛かるマリメッコの布。窓枠とラジエーターカバーは1933年のまま。ⓒFASHIONSNAP
4.ドレスは年代順に並んでいない。色と柄ごとにまとめて部屋に振り分けたので、作られた年が数十年離れた服が一つの台に並ぶ。階段の踊り場では黒い円が連なる布二枚が天井から床まで下がり、浴室の窓にも柄布をあてて、光が柄を通って入ってくる。来館者は白い壁の展示室ではなく、他人の家の居間と階段と浴室を順に抜けながら、布が実際に掛かった姿を見る。
階段の踊り場 · 黒い円の柄の布二枚が天井の高さから下がる。ⓒFASHIONSNAP
階段の踊り場黒い円の柄の布二枚が天井の高さから下がる。ⓒFASHIONSNAP
浴室の窓 · 邸宅の浴室の窓にも布をあてた。外の光が柄を通って入る。ⓒFASHIONSNAP
浴室の窓邸宅の浴室の窓にも布をあてた。外の光が柄を通って入る。ⓒFASHIONSNAP
5.2014年に建てられた新館では、布ができる過程を見せる。青い枠のシルクスクリーン版が壁沿いに立ち、アートユニットplaplaxがヘルシンキの工場のフラットスクリーン捺染を映像にして長いテーブルに投影する。色版が一枚重なるたびに柄が一つ増えていくのを、テーブルの上で見届ける仕掛けだ。
シルクスクリーン版 · 新館に置かれた捺染用の版。一版が一色を受け持つ。ⓒFASHIONSNAP
シルクスクリーン版新館に置かれた捺染用の版。一版が一色を受け持つ。ⓒFASHIONSNAP
plaplaxの映像インスタレーション · 工場の捺染台をなぞった長いテーブルに、柄が次々と刷られていく。ⓒFASHIONSNAP
plaplaxの映像インスタレーション工場の捺染台をなぞった長いテーブルに、柄が次々と刷られていく。ⓒFASHIONSNAP
6.この展示が人を呼ぶ理由は、服よりも部屋にある。マリメッコは服と同じくらいクッションや食器やカーテンを売り、客が持ち帰るのは結局、自分の家に掛かる柄だ。白い壁に貼った布は作品で、窓に掛けた布は家。90年前の邸宅の窓がその場面を見せてくれるので、来館者は1,400円で自分の居間を先取りして見ることになる。
7.日本の側にも語ることのあるブランドだ。脇阪克二が1968年にマリメッコのデザイナーとして入社し、石本藤雄は1974年から2006年までヘルシンキで柄を描いた。今回はミナ ペルホネン(minä perhonen)を立ち上げた皆川明が、布の輪を天井から床までつなぐインスタレーションを新たに制作した。フィンランド語で名付けた日本のブランドが、フィンランドのブランドの展示に手を貸した格好。
布の輪のインスタレーション · 柄の違う布を輪にしてつなぎ、窓の前に垂らした。ⓒFASHIONSNAP
布の輪のインスタレーション柄の違う布を輪にしてつなぎ、窓の前に垂らした。ⓒFASHIONSNAP
8.マリメッコの2025年の売上高は1億8,960万ユーロ、比較可能営業利益は3,230万ユーロで売上の17.1%。アジア太平洋の売上は4,000万ユーロで、フィンランドに次ぐ第2の市場だ。店舗数では順位が逆転する。昨年末、世界174の店舗とショップインショップのうち94がアジア太平洋にあり、本国フィンランドは67にとどまる。
마리메꼬 2025년 지역별 매출과 매장 수
왼쪽 · 매출(백만 유로) / 오른쪽 · 연말 매장과 숍인숍 수(개) 핀란드 102.4 67 아시아태평양 40.0 94 스칸디나비아 20.5 8 유럽 15.3 3 북미 11.5 2 합계 매출 189.6 매장 174개 아시아의 매장은 대부분 현지 협력사가 운영한다
マリメッコ2025年決算開示に基づく。店舗数は30㎡を超える直営店・パートナー店・ショップインショップの合計。
9.アジアの店舗の多くは現地パートナーが運営している。マリメッコはパートナーに商品を卸して卸価格を受け取り、パートナー店の小売額まで足したブランド売上は3億8,510万ユーロと、会社の売上の約2倍になる。日本でのパートナーはアパレル企業のルックホールディングスで、昨年末時点で国内のマリメッコ店舗は41。2025年10月には大丸東京店にもう一店を出した。
10.展覧会そのものが稼ぐ額は大きくない。79日の会期から休館日を除けば開館は70日余りで、1日1,000人が全員一般券を買ったとしても観覧料は1億円に届かない(推計)。チケット収入は美術館のもので、マリメッコは特別協力として名を連ね、資料を貸し出す。企画協力には映画会社の東映が入った。巡回展をひとそろい組み、美術館に順に掛けていく役回りとみられる。
11.お金が動くのは出口前のショップだ。京都会場では京都の職人が作った扇子が4,200円、羊羹3種セットが1,944円で並び、東京では紅茶専門店LUPICIAと作った展覧会限定の紅茶がトートバッグやマスキングテープの隣に置かれた。同じショップでバッグや食器などマリメッコの定番商品も売る。来館者はいくつもの部屋で柄を見たあとにレジの前を通る。
展覧会ショップ · 展覧会ロゴの柄を刷った扇子と限定グッズ。ⓒFASHIONSNAP
展覧会ショップ展覧会ロゴの柄を刷った扇子と限定グッズ。ⓒFASHIONSNAP
12.巡回の2年間は、会社がアジアでの出店を増やす時期と重なる。今年は店舗とショップインショップを10〜15か所新設する計画で、その大半はアジアだと開示している。広島や名古屋や長崎の美術館のスケジュールに2年間名前が載るが、マリメッコがその枠に広告費を払ったという公開資料はない。
色でまとめた部屋 · 緑系のドレスだけを集めた台。作られた年の違う服が一か所に並ぶ。ⓒFASHIONSNAP
色でまとめた部屋緑系のドレスだけを集めた台。作られた年の違う服が一か所に並ぶ。ⓒFASHIONSNAP
13.いまの展示の顔は花だが、創業者アルミ・ラティア(Armi Ratia)はかつて花柄を作るなと言った。自然の花を布に写しても本物には勝てない、というのがその理由。デザイナーのマイヤ・イソラ(Maija Isola)は1964年にその言葉を聞かずに大きなケシの花を描き、それがいま会社を代表する柄、ウニッコ(Unikko)になった。
ガラス扉の前 · 邸宅の装飾ガラス扉の横に、円の柄と花柄のワンピースを立てた。ⓒFASHIONSNAP
ガラス扉の前邸宅の装飾ガラス扉の横に、円の柄と花柄のワンピースを立てた。ⓒFASHIONSNAP
14.1933年のこの家は、フランスの装飾を取り寄せて飾った家。90年余りのちにその部屋にフィンランドの布が掛かり、その布を買う客の大きな部分はいまアジアにいる。同じ巡回展は京都では白い壁の博物館展示室を使った。家を得たのは東京会場だけ。
15.店舗の半分以上をアジアに置くマリメッコは、観覧料1,400円の巡回展で2年間、七つの都市の美術館のスケジュールに載る。東京では重要文化財の邸宅のカーテンまで掛け替えた。同じ展示を韓国でやろうとすれば、まず建物で引っかかる。指定文化遺産の室内に布を掛けることにも許可手続きが要る場合が多く、その手続きは展示の日程より長くかかる。
デイリー・カルチャー #067 · 2026.10.05
出典 · 東京都庭園美術館「マリメッコ展 模様のちから」 · PR TIMES「マリメッコ展 10年ぶりの展覧会開催が決定」 · FASHIONSNAP「『マリメッコ』10年ぶりの展覧会が東京に巡回」(2026.10.02) · QUI「マリメッコ展 模様のちから 東京都庭園美術館で開催」 · Tokyo Art Beat「マリメッコ展 2026年夏、全国巡回へ」 · Sfumart「マリメッコ展が京都で開幕」 · 美術展ナビ「マリメッコ展」 · Marimekko Corporation「Financial Statements Bulletin 2025」 · ルックホールディングス「2025年12月期 通期 決算補足資料」(2026.02.13) · Wikipedia「東京都庭園美術館」
マリメッコ展 模様のちから 2026年10月3日〜12月20日 · 東京都庭園美術館 本館・新館(東京都港区白金台5-21-9) · 10:00〜18:00(入館は17:30まで) · 一般1,400円 · 日時指定予約制。観覧料収入は1日1,000人を仮定した推計で、入館者数は公表されていない。